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熟練者の「感覚」を数式で表現! JR東海の「乗務員行路作成自動化」に向けた挑戦

プロジェクトの概要

東海旅客鉄道株式会社(JR東海)様の在来線における乗務員の行路作成業務の効率化を目指して、2024年度からプロジェクトを開始。JR中央本線の車掌行路を対象として、数理最適化技術を活用した自動行路作成モデルの開発に取り組んでいる。

導入前の問題点

  1. 従来の行路作成は、熟練した担当者の経験とノウハウに大きく依存している。

  2. 1つの路線の行路作成に多くの時間を要し、担当者の負担が大きい。

  3. 経験から定める項目が多く、ノウハウを継承することが容易ではない。

最適化実現のポイント

  • 現場とエンジニアの密な連携と高速なPDCAサイクル

  • 複雑な制約条件の適切な整理と優先順位付け

  • 実務で実際に活用できることを最優先としたシステムづくりを重視


―今日はよろしくお願いします。まずは皆様の自己紹介をお願いいたします。

 

山下様:JR東海 東海鉄道事業本部 運輸営業部 運用課の山下と申します。在来線部門で運転士・車掌の行路作成業務の統括をしています。

 

池戸様:同じく運用課の池戸です。ダイヤ改正に伴う車掌行路を担当し、乗務員や指令の経験を活かして行路を作成しています。今回のプロジェクトでは行路作成実務のサポートを担当しています。

 

北村様:技術開発部の北村です。プロジェクト全体のコーディネートや要件定義、Jij社と協働した数理モデルの実装などを担当し、業務の高度化と負荷削減を目指しています。

JR東海 東海鉄道事業本部 運輸営業部 運用課 池戸様

JR東海 東海鉄道事業本部 運輸営業部 運用課 池戸様

―まず、「行路作成」とはどういう業務なのでしょうか。

 

北村様:当社の路線にはそれぞれ従事する乗務員がいて、勤務パターンも異なります。その中から制約を守りつつ最適な組み合わせを見つけていくのが「行路作成」です。

例えば、乗務員がA駅から勤務をスタートするとします。最初の区間の列車に乗務した後、B駅で昼食休憩を取り、さらに列車に乗務してC駅に到着。ここで宿泊し、翌朝に再び勤務を始めてA駅に戻って勤務終了となります。このような一連の具体的な勤務計画を、一つひとつの「行路」として組み合わせます。

当社の中央本線を例に挙げると、運行している列車は一日400本ほどあり、それを約40行路で運行しています。単純に400本の列車を40行路に当てはめると仮定すると「40の400乗」という天文学的な量の組み合わせとなり、その中から最適な組み合わせを選択する必要があります。

 

山下様:さらに、労働基準法や就業規則も踏まえながら「どの区間で交代するか」といった条件も加味する必要があります。乗務員全員のシフト表を一つ一つ手作業で作成していくようなイメージです。

 

池戸様:ダイヤ改正前の9月から翌年3月頃が行路作成の繁忙期です。それと並行して、将来の施策を見据え、「この計画を実行する場合、乗務員行路はどうなるか」といった検証や、点呼・指示といった管理業務も行っています。

JR東海 東海鉄道事業本部 運輸営業部 運用課 山下様

―現在はプロジェクトの2年目にあたります。これまでの歩みと、目指すゴールを教えてください。

 

北村様:1年目は「お試し期間」として、数理最適化で行路を作るとはどういうものかをまずは体感し、「できること・できないこと」を把握することが活動のメインでした。

2年目は、実運用に挑戦する段階です。特に形式知化が難しい部分に焦点を当て、効率性を高めながら、現場で活用できるレベルの完成度を目指しています。

3年目以降、中央本線の車掌行路の数理モデル化が実現できれば、より難易度の高い運転士行路や車両行路の作成、他線区への展開も行いたいと考えています。

現在は乗務員の行路作成を一から手作業で作成している

―数理最適化を進めるうえで、特に難しいポイントはどんな部分でしょうか。

 

池戸様:一番は、「感覚」を数式に落とし込むことです。これまでは経験に基づき、「この時間に出勤なら、ここで食事、ここで休憩、これくらい働いて翌朝に終業」と感覚的に行路を作っていました。それを数値や数式で表現するのは初めての試みで、最初はとても苦労しました。

 

山下様:私と池戸が同じ条件で行路を作っても、必ずしも同じ行路になるわけではありません。「どちらが正しい」というわけではなく、労働基準法などの条件を満たしていれば「両方とも正解」なのです。例えば、私は早めに出勤して業務を少しでも早く終えるほうが好きですが、逆に「遅めの出勤でも構わない」という人もおり、行路作成担当者の考え方によっても結果は異なります。

 

北村様:これまでも「行路作成のマニュアル」は存在していましたが、実際に着手すると経験から定めている暗黙知が多いことがわかりました。現場担当者の「感覚」的な部分をいかに形式知化するかが大きな焦点ですね。



―制約条件の線引きや調整は、Jijとのやり取りの中でどのように行っているのでしょうか。また、「伴走型支援」の効果についても教えてください。

 

北村様:まずは現場の意見を条件に組み込み、実際に行路を出力してみます。それで効率性が大きく落ちる場合は「やめておこう」と判断することもあります。休憩やトイレのタイミングなども、実績データを参照しながら制約条件の範囲を調整し、条件を設定しています。

現場の担当者が「ここは外せない」と言う一方で、効率性を重視する立場から「そこは譲れない」と意見が分かれることもあります。そうした場面では、すぐにJijのエンジニア 宮脇さんと相談し、落としどころを見つけながら進めています。Jijの伴走支援があることで、課題をその場で解決できるのは心強い点ですね。

 

山下様:要件を数理モデルに反映する過程をその都度確認できるのは大きなメリットです。従来の外部委託ではブラックボックス化が課題でしたが、双方向のやり取りによって改善へのプロセスが可視化され、スピーディーかつ継続的な改善が可能になりました。実務担当者の意見も反映され、より実用的なシステム構築が進んでいると実感しています。

 

池戸様:Jijさんとの定期的な打ち合わせで、出力結果に対する現場目線のフィードバックを直接伝えられるのも利点です。乗務員の働きやすさなども議論でき、改善につなげられています。

JR東海 技術開発部 北村様

―現時点での成果や手応えを教えてください。

 

北村様:今回の取り組みは在来線の車掌行路ですが、そこで成果が出せれば社内的にも大きなインパクトがあるでしょう。行路作成を超えて広がっていく可能性は大きいと感じています。

―内製化を目指すうえで、数理最適化の統合プラットフォーム「JijZept」も使われています。感想やご意見を伺えますでしょうか。

 

北村様:エンジニアリングのスキル、特にPythonの知識があれば扱えるプロダクトなので、内製化を進めるうえで有効です。昨年に比べて操作できる範囲が大幅に広がり、「かゆいところに手が届く」インターフェースになっていると感じています。

必要な制約条件の入力や結果の確認が容易にできるようになれば、現場でも活用できると考えています。

Jij 数理最適化エンジニア 宮脇

―これからに向けて、最後に一言お願いします。

 

山下様:将来的に、行路作成未経験者が行路作成を統括する役割を務める可能性もあり、その際にノウハウが途切れてしまうのは大きなリスクです。誰でも一定の条件を入力すれば計画を作成できるまで精度を高めることが重要だと考えていますので、引き続き注力していきたいです。

 

池戸様:最終的にはJijさんに頼らず、弊社だけで運用できる状態が理想です。そのためには、ルール変更や新しい決まりごとが出ても柔軟に対応できるシステムでなければなりません。鉄道業界は1年でも状況が大きく変化するため、その変化に耐えられる仕組みにしていくことが今後の鍵だと思います。

 

北村様:私たちが目指すのは「開発して終わり」ではなく、実際のユーザーとなる現場の方々が「使いやすい」と感じながら継続的に活用してもらえる状態です。できない理由を探すのではなく「どうすればできるか」を共に考え、スピーディーに実験・開発を進めていきたいと考えています。これまで同様Jijさんとタッグを組んで、共に前進していければと思います。